館長メッセージ

2011年4月28日

高野山の展覧会が始まりました

展覧会「空海からのおくりもの-高野山の書庫の扉をひらく」が始まりました。

これについて、一言、ご説明を申しあげます。本展覧会は高野山に伝来する印刷関連資料を、本格的に展示する、ほとんど最初の機会となりました。

高野山は、弘法大師空海によって、平安時代に創始されましたが、それは日本における密教信仰の中心となったばかりか、それにともなうさまざまな文化の最前線を開拓することになりました。印刷文化は、そのうちの重要な一環でありました。経文・版木・仏画などは、本山・金剛峯寺や塔頭で無数に制作され、長い歴史のなかで活きた形で伝来されてきました。「山の正倉院」とよばれる所以です。

今回、その高野山から、多数の秘宝が山を降り、公開されることになりました。

代表的な仏像や仏画は、これまでもしばしば公衆の目に触れてきましたが、たとえば仏典、版画、護符など印刷関連の資料は、あまりその機会に恵まれませんでした。今回、印刷博物館では、悲願ともいうべきこの展覧会を企画し、高野山関連のみなさまに趣旨をご説明し、理解をいただいてまいりました。80点に近い秘宝が、ここに集います。その大多数は、初めてお山を降りるものです。

奈良・京都とならぶ、巨大な出版センターであった高野山の姿が、私どもの目の前に現れることになります。空海に始まる1200年、高野山の精神的遺産の価値を、十分に味わいたいと思います。

2011年春、私たち日本人はいま、東日本大震災という予想だにしなかった国難に直面しています。しかし、空海とその衣鉢をつぐ高野山の精神の深奥に、私たちは難局を克服し、豊かな甦りを展望する希望の灯を見出すことができるのではないでしょうか。それへの熱い祈念とともに、印刷博物館はこの展覧会の扉を開きます。どうかこの心意気をお汲みとりいただき、お力添えを賜りたいと存じます。

印刷博物館館長

樺山 紘一

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館長プロフィール

印刷博物館館長

樺山 紘一

1941年、東京生まれ。1965年、東京大学文学部卒業、同大学院修士課程修了後、1969年から京都大学人文科学研究所助手。1976年から東京大学文学部助教授、のち同教授。2001年から国立西洋美術館長。2005年から印刷博物館館長、現職。専門は、西洋中世史、西洋文化史。おもな著作に『異境の発見』、『地中海、人と町の肖像』、『ルネサンスと地中海』、『歴史のなかのからだ』、『西洋学事始』、『歴史の歴史』、『ヨーロッパ近代文明の曙 描かれたオランダ黄金世紀』など。