館長メッセージ

2018年10月29日

「天文学と印刷」展がはじまりました

15世紀から16世紀にかけての時代、ヨーロッパではルネサンスとよばれる文化運動が、華やかに展開されていました。名だたる美術の名作が創造され、解放感にひたった学者や知識人たちが、人間知性の自由を謳歌していたときです。

このときに、その一環ともいうべき二つの営みが、翼をひろげつつありました。ひとつは、天文学という、天体についての知識。太陽や月や惑星が示す、それぞれの運行のルートを正確に観察し、予測するという学術。天体の運行の全体を解明しようと、野心をぎらつかせる学者もいました。それでも、これは容易な業ではないでしょう。

いまひとつの営みは、印刷術。ドイツ人グーテンベルクによって開発された活版印刷術を受けとめた人たちです。手書きの写本ではなく、活字や版画を使用して、多数のページを一気に複製する魔法のような技術。いったんその適用力が分かってみると、たちどころに全ヨーロッパに受けいれられていきます。

さて、この二つの知識と技術のシステムは、いったん一方が他方の有用性を発見したとき、驚くべき効果が発揮されました。天体の運行を、それの説明データとあわせ、図版によって呈示すること。難解な運行ルート図は、書物のページ上に鮮明に描かれて、広く世の中に公開されました。

本展覧会は、この二つの営みが出合った、その現場を再現しようとする試みです。そして、それにともなう、さまざまな活動や知識を参照するために、できるだけ具体的に資料をご覧いただこうと考えました。印刷博物館にお越しいだき、ゆっくりご観賞ください。

印刷博物館館長

樺山 紘一

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館長プロフィール

印刷博物館館長

樺山 紘一

1941年、東京生まれ。1965年、東京大学文学部卒業、同大学院修士課程修了後、1969年から京都大学人文科学研究所助手。1976年から東京大学文学部助教授、のち同教授。2001年から国立西洋美術館長。2005年から印刷博物館館長、現職。専門は、西洋中世史、西洋文化史。おもな著作に『異境の発見』、『地中海、人と町の肖像』、『ルネサンスと地中海』、『歴史のなかのからだ』、『西洋学事始』、『歴史の歴史』、『ヨーロッパ近代文明の曙 描かれたオランダ黄金世紀』など。