館長メッセージ

2021年6月1日

和書ルネサンス展を開催しています

わが国で江戸時代を中心に、膨大な数の写本が作られました。世界に例がないほどとも言われます。写本とならんで、印刷された書物も爆発的に増大。じつは、そこにはさまざまな形がありました。

木製の版木に、一枚ずつ彫られ摺られて、合冊された整版本。これが大流行。そしてさらに、これに版画を加えた華やかな文学書や実用書が、江戸時代の書店を飾りました。そして、じつはそこには木製の活字を使う、新しい発想も加わっていました。木活字本といいます。もちろん、これを追うかのように、浮世絵版画という著名な一枚ものも、一斉に花を開いたようです。

わたしたちは、この現象を「和書ルネサンス」と呼ぶことにしました。『源氏物語』を筆頭とした古典文学も、書写から整版印刷へと委ねられました。さらには、平易な文章で綴られた草双紙から、近代初頭の言文一致体の読み物まで。こうして、わたしたちの先祖たちは、このルネサンスをとおして、確かな手ざわりのある「日本語」と「日本文学」を獲得したようです。

その足どりをあらためて確かめてみたいとこの展覧会を企画しました。ご参観のうえで、有益なご示唆と厳しいご批評とを頂戴できればと願っています。

印刷博物館館長

樺山 紘一

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館長プロフィール

印刷博物館館長

樺山 紘一

1941年、東京生まれ。1965年、東京大学文学部卒業、同大学院修士課程修了後、1969年から京都大学人文科学研究所助手。1976年から東京大学文学部助教授、のち同教授。2001年から国立西洋美術館長。2005年から印刷博物館館長、現職。専門は、西洋中世史、西洋文化史。おもな著作に『異境の発見』、『地中海、人と町の肖像』、『ルネサンスと地中海』、『歴史のなかのからだ』、『西洋学事始』、『歴史の歴史』、『ヨーロッパ近代文明の曙 描かれたオランダ黄金世紀』など。