印刷文化学をめざして

印刷が果たしてきた役割

印刷博物館は開館以来、印刷が人々の生活に果たした役割を、おもに展示活動を通じて広く公開してきました。その内容は、日進月歩で進化を遂げる印刷の技術的な側面ばかりではなく、印刷とは何かという本質的な問い──すなわち印刷の社会性やその歴史がもつ文化的側面──を追求した成果でもあります。そして、こうした活動こそが20年を経た今も変わらず、私たちの使命であると考えています。

今、私たちはコミュニケーションのあり方がめまぐるしく変化する時代に生きています。それは15世紀に起こったグーテンベルクによる活版印刷の情報革命をも凌駕する、デジタル技術によるメディアの大変革期を迎えているためです。

印刷文化学とは

印刷メディアの転換点である現代こそ、歴史上の重要なポイントであると私たちは捉えています。今、独自に「印刷文化学」を構築するのも、長い歴史をもった印刷の文化的蓄積が体系化されるべきと考えるからです。「印刷文化学」とは、これまで本格的に取り上げられることのなかった印刷と人間の関係を、文明史的なスケールの視点から捉え直し、これに携わった人類や社会の営みについて検証を加えるものです。

私たちは現代と未来の情報メディアのあり方を模索するうえで重要な指針となり、コミュニケーションの発展に有用な新しい学問領域となるよう、この挑戦に取り組んでまいります。