館長メッセージ

2007年8月30日

幼児雑誌がかたる20世紀

『キンダーブック』という幼児むけの雑誌をご存じですか。さまざまな世代の日本人のあらましが、幼稚園の本棚で、その姿をみたのではないでしょうか。夢いっぱいの表紙。本文にも、詩と絵とがあふれていました。

じつは、この雑誌は今年でちょうど80年をむかえるという長寿なのです。創刊は、1927(昭和2)年。それ以来ずっと、時代を代表する詩人や画家が、子どもたちのために筆をとってきました。どんなに豊かな想像力をかきたてられたことか。もっとも、わたし自身は、戦後の混乱で幼稚園にもいけず、書店だってまともになかったために、ついに『キンダーブック』の世界からはじかれていました。このことの無念は、いまだに忘れていません。

今回、ギャラリーでは、この雑誌の足どりをしめす300冊を、まとめて展示します。これでも、ほんの3分の1にすぎないのですが。それは、昭和以来の幼児たちの歴史を、ことのほか忠実に映しだすことになるかもしれません。できれば、お子さんと、またはお孫さんと一緒に、お出かけください。

「キンダーブックの80年」展へどうぞ。

印刷博物館館長

樺山 紘一

過去の館長メッセージを見る

館長プロフィール

印刷博物館館長

樺山 紘一

1941年、東京生まれ。1965年、東京大学文学部卒業、同大学院修士課程修了後、1969年から京都大学人文科学研究所助手。1976年から東京大学文学部助教授、のち同教授。2001年から国立西洋美術館長。2005年から印刷博物館館長、現職。専門は、西洋中世史、西洋文化史。おもな著作に『異境の発見』、『地中海、人と町の肖像』、『ルネサンスと地中海』、『歴史のなかのからだ』、『西洋学事始』、『歴史の歴史』、『ヨーロッパ近代文明の曙 描かれたオランダ黄金世紀』など。