館長メッセージ

2015年4月24日

ヴァチカンからの書物

印刷博物館が設立されたのは、2000年のことでした。その翌々年の2002年春、記念すべき展覧会が開催されました。「ヴァチカン教皇庁図書館展」。「書物の誕生、写本から印刷へ」と副題されました。教皇庁図書館からの暖かいご支援うけ、この展覧会は大成功を収め、印刷博物館の発展のためのかけがいのない礎石となりました。その後、同図書館とのあいだで交流をふかめ、再使用羊皮紙(いわゆるパリンプセスト)の判読作業などをとおして、密接な協力関係を築いてきました。

この度、同図書館のご支援をえて、「ヴァチカン教皇庁図書館展Ⅱ」を開催するはこびとなりました。「書物がひらくルネサンス」と副題するこの展覧会は、この間の印刷博物館の成長の姿を世に問うものであり、ふたたびヴァチカン図書館の精髄の一端をご紹介します。

ここで、「書物がひらくルネサンス」と銘うったことの趣旨を、ひとこと弁明しておきます。ヴァチカン図書館の厖大な書物コレクションのなかでは、ルネサンスの時代の典籍が重要な意味をもつことは、いうまでもありません。同図書館はまさしくその時代の所産として誕生しました。書物はそれ以前からも存在をほこっていましたが、ルネサンスの時代になってよみがえった活力とともに、再生しました。ながい歴史を背にした旧来の手写本も、新たに登場した活字本も、そして書物を飾ろうという輿望にこたえて生まれた木版・銅版画も、みな書物としての輝きを推進します。まさしく、書物の再生がルネサンスとともに到来しました。

いま私たちは、ヴァチカン図書館とともにこの書物の再生を想起しています。その現代にあってはデジタル文化の出現により、書物には大きな変革が訪れようとしています。ことによると、この変革によっていまひとたび、書物の再生をことほぐことになるかもしれません。書物や印刷をめぐる状況が大きく変動する時代に、こうした展覧会を開催できることの喜びをかみしめています。多数の皆さまのご来場をお待ちしています。

印刷博物館館長

樺山 紘一

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館長プロフィール

印刷博物館館長

樺山 紘一

1941年、東京生まれ。1965年、東京大学文学部卒業、同大学院修士課程修了後、1969年から京都大学人文科学研究所助手。1976年から東京大学文学部助教授、のち同教授。2001年から国立西洋美術館長。2005年から印刷博物館館長、現職。専門は、西洋中世史、西洋文化史。おもな著作に『異境の発見』、『地中海、人と町の肖像』、『ルネサンスと地中海』、『歴史のなかのからだ』、『西洋学事始』、『歴史の歴史』、『ヨーロッパ近代文明の曙 描かれたオランダ黄金世紀』など。