印刷博物館ニュース

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vol.99 - 特集2 -

団地誕生!―あこがれの都市生活

戦争が終わって10年がたち、復興がすすむなかで、1955年、不足する住宅を建設し供給することを目的に日本住宅公団が設立されました。
日本住宅公団によってつくられた「団地」は、ただ住むためだけの場所ではありませんでした。
これまでにはない新しい生活様式がつくられていった場所でもあったのです。その団地での新しい生活は印刷によって彩られました。

団地誕生

1956年、日本住宅公団による第一号団地「金岡団地」が大阪府堺市に造成されました。戦後すぐから、住宅建設は復興のために急務であり、戦後からこの金岡団地ができあがるまでには、多くの計画がなされてきました。前半は、復興の色が濃く、まずはどんなものであっても住むことができる場所をつくることが優先されてきました。それでも、復興がすすむにつれて、都市部にはますます労働者が必要となり、住宅の需要は増え続けます。しかも、復興とともに徐々に経済力があがってくると、ただ住めればいいだけではなく、文化的で健康な住宅がのぞまれるようになっていきました。
そんななかで、設立されたのが日本住宅公団です。それまで建設されてきた公営住宅のような行政区域にはとらわれず、広範囲に宅地開発を行い、住宅を供給することが目的でした。1959年には、住宅建設10カ年計画が策定され、284万戸の住宅不足を解消し、さらにその後の需要増も満たすだけの住宅を建設することが謳われました。それに応えるために、大都市を中心に次々と団地が建てられていくようになります( ❶ )。

➊ 東京都・新宿区・戸山アパート
『LIVING DESIGN No.2 現代建築(年鑑’58)』美術出版社、1958年より
(印刷博物館ライブラリー)

団地族の新しい生活

食寝分離をかかげて設計された団地は、ダイニングキッチンと2つの寝室を持つ2DKでした。鉄筋コンクリートの建物。水洗トイレや風呂、べランダ。従来の日本の家屋にはない新しい間取りの団地で暮らすことは、庶民のあこがれとなっていきます。団地の人気は高く、厳しい倍率の抽選に勝ち抜かねば入居できませんでした。決して安いとは言えない家賃を払ってでも住まう価値がある、清潔で文化的な生活が団地にはあったのです。
団地に住む若いサラリーマンとその家族は「団地族」と呼ばれました( ❷ )。共働きで高い所得水準を持ち知的な彼らが享受する新しい生活様式は羨望の的でした。旺盛な購買意欲を持ち、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫という「三種の神器」( ❸ ❹ )から、その後にはカラーテレビ、クーラー、カー(自家用車)の「3C」( ❺ )へと、次々に発売される耐久消費財を購入する余裕も持ち合わせていました。彼らは、いち早く洋式の生活や電化製品を暮らしに取り入れ、普及させていきました。

❷ 新しき庶民 “ダンチ族” アパート住いの暮しの手帖
『週刊朝日 7月20日号』第63巻第30号、朝日新聞社、1958年より
(資料No.58545)
❸「ゼネラルグランド19Xライン」
(資料No.46309)
❹「HITACHI REFRIGERATORS」1961年(資料No.75421)
❺「TOYOPET CORONA 1500」1963年
(資料No.25209)

団地をつくり、彩るもの

大量に住宅を供給する必要にせまられた建築業界は、団地のような集合住宅を効率的に建設するために、工業化の考え方を取り入れました。あらかじめ規格化された部材を工場で製造し、現場で組み立てるプレハブ工法が普及していきます。このような建築では、柱や壁などの建物の構造を構成する部材はもちろんのこと、内装や家具も工業化された部材が使用されていきました。木目を印刷した化粧板が製造され、家具やドア、パーティションなどに使用されました。
日本初のメラミン化粧板は、1951年、日本化工材工業(現 住友ベークライト)が発売した「デコラ」です( ❻ )。最初に販売されたデコラは無地でしたが、すぐに柄の印刷が検討され、大日本印刷に依頼されています。建材への印刷には、金属や樹脂などが多く、グラビア印刷で行われます。デコラは、印刷した化粧紙をメラミン樹脂で含浸するため、チタン紙が用いられました。デコラの最初の柄には描き版によるリネン柄が採用され、1952年に販売されました。その後、マーブル柄や木目柄などが徐々に増えていき、1954年には興国人絹パルプによって国産原紙も製造され、他社でも化粧板生産が始められました( ❼ )。
化粧板は、天然の木材とは違い、安価で安定的に供給できる部材です。チタン紙だけでなく、薄紙でも化粧板がつくられるようになると、より安価な部材として、団地で多く用いられるようになり、住宅の大量生産を支え、生活を彩るようになりました。
(印刷博物館 学芸員 本多真紀子)

❻『 デザイン+デコラ No.3』住友ベークライト株式会社、1962年
(資料No.62984)
メラミン樹脂化粧板「デコラ」のPR誌。デザインや生活に関するコラム、デコラを使用した製品紹介などが掲載される。
❼「 TOPPAN DECORATIVE PAPERS」
(資料No.58892)
化粧合板に使用する化粧紙の見本帳