印刷博物館ニュース

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Vol.101 - 特集2 -

「木目シートのできるまで2026」展(2026.4.4~6.14)開催報告

2006年にP&Pギャラリーにて「木目シートのできるまで あなたの家のとびらのひみつ」展を開催して以来、20年ぶりに建装材の印刷に焦点を当てました。
本特集では、展覧会を振り返りながら、木目シートがどのようにできていくのかを追いかけ、意匠性や機能性の面からもその魅力に迫ります( ❶ ❷ )。

Ⅰ 木目シートとは?

木目シートとは、「化粧シート」と呼ばれる印刷物の一つです。木目や石目、抽象柄などを印刷した薄いシートを基材の表面に貼ることで、本物のような質感やデザインに加え、傷や汚れに強い機能性を付与できる建装材です( ❸ )。

➊ 展示会場の様子
❷ 展示会場の様子
❸ 木目シート(品番:TE-SN2132/商品名:ルバートウォールナットB)

木目シートのトレンド
戦後の深刻な住宅不足を背景に、1950年代から住宅の大量供給が進みました。住宅の増加に伴い、ドアや収納などの建具にも量産性が求められ、化粧シートへの需要が高まっていきます。時代ごとに木目シートを並べると、流行した色味や空間デザインの変化を読み取ることができます( ❹ )。

➍ 木目シートのトレンド

進化する木目シート
木目シートは、耐久性を高めることで、床材や外装用途へも広がっていきました。また、表面の凹凸と絵柄を同調させる技術により、触感や見た目の再現性も高度化しています。 シートの最下層には、フィルム素材や紙などが用いられます。その上の印刷層には、精緻な柄表現を可能にするグラビア印刷が広く使われています。さらに、表層の特殊硬質クリア層や特殊コーティング層によって、耐久性などの機能が付与されています。こうした印刷・加工技術が、厚さ約0.2ミリの木目シートに凝縮されています( ❺ )。

❺ 木目シートのレイヤー構造

Ⅱ 木目シートのできるまで

木目シートは、膨大な調査と緻密な技術から生まれています。世界のトレンド分析から、木材の選定、製版、印刷、加工に至るまで、多くの工程を経て作られています。

市場調査から企画立案まで
木目シートの制作は、トレンドの把握から始まります。デザイナーは、世界中の展示会や市場を調査し、代表的なものではイタリアの「ミラノサローネ(ミラノ国際家具見本市)」などを継続的に視察しています。 収集した情報を分析し、住宅や建具の変遷、出荷動向なども踏まえながら、「次に求められるデザイン」を考察。ライフスタイルや空間イメージに合わせたデザインコンセプトを策定し、柄制作へとつなげていきます

デザイン・原稿選定
デザインコンセプトに基づき、具体的な空間や暮らしを想定しながら柄制作を進めます。原稿(木材)の貯蔵庫には、長い時間をかけて国内外から収集した数万点のアーカイブがあります。選定後は最適な塗装や仕上げを施し、「触感」や「質感」を追求します( ❻ )。

❻ 無垢材の表面を研磨・塗装・加工し、原稿に仕上げていく

スキャン入力
選定した原稿を専用の大型スキャナーで読み取ります。木材は光の当たる角度によって、シャープに見えたり重厚感が出たりと、表情が変わります。デザイナーは光を当てる方向を細かく調整し、目標とするデザインに最もふさわしい表情を捉えていきます。「一瞬の美しさ」をデジタルデータへ定着させる工程です。

柄制作(分版、エンドレス、柄修正)
① 分版:スキャンした画像を印刷用の版データへ変換します。建装材の印刷では、専用に調合した「特色インキ」を使用します。
② エンドレス:円筒状の版で印刷するため、画像のつなぎ目が目立たないよう、絵柄が無限につながるようにデジタル処理します。
③ 柄修正:本物の木にある傷や不自然な曲がりなど、欠点となる部分を丁寧に修正します( ❼ )。

❼ スキャン入力から柄制作(分版、エンドレス、柄修正)まで

尺角製版(テスト版)・尺角校正
「尺角」と呼ばれるA3サイズ程度のテスト版で試し刷りを行います。デザイナー自らが立ち会い、目標とする色が再現できるまで、オペレーターと細かな調整を繰り返します。こうして完成した試作品を得意先に提案し、色や柄の承認を得て初めて、本番の印刷へと進みます( ❽ )。

❽ 尺角製版の版(凹版)と校正刷り

本版シリンダー製版(生産用)・本版印刷
木目シートの印刷にはシリンダーを使います。銅メッキの表面に微細なセル(凹み)を彫り、その上を硬いクロムメッキで保護します。グラビア印刷では、このセルの大きさや深さによってインキ量を精密にコントロールし、木目の繊細な濃淡を表現します。色数分のシリンダーを印刷機にセットし、特色インキを1色ずつ重ね刷りしていきます。

加工(シリンダーによるエンボス加工、ラミネート加工など)
印刷された木目シートに、最後の仕上げを施します。木表面の質感を再現した凹凸を型押しする「エンボス加工」により、本物のような立体感を付与します。さらに、特殊コーティングやラミネート加工を組み合わせることで、傷や汚れに強い耐久性や、清掃しやすいメンテナンス性を付与しています( ❾ )。

❾ 左:印刷用シリンダー/右:加工用シリンダー

完成
こうした工程を経て、ようやく木目シートが完成します。これまで培ってきた「木を見る目」とデジタル技術、そして印刷の技。木目シートには、そのすべてが詰まっています( ➓ )。

➓ 完成した木目シート

Ⅲ いろんなところに木目シートが!

木目シートは、住宅や店舗、オフィスなど、私たちの暮らしのさまざまな場所で使われています。薄く柔軟性があるため、多様な加工法に対応でき、平面だけでなく曲面やエッジ部(端部)まで美しく仕上げられます。建具や家具など、最終製品を作るメーカーの加工技術と組み合わさることで、自然な木の表情を空間に生み出しています( ⓫ )。

⓫ ドアに加工された木目シート

本物以上をつくる技術、木目シート
一見すると本物の木と見分けがつかない木目シートですが、その背景には、機能性や施工性、メンテナンス性、品質の安定性といった、「現代の素材」としての側面があります。木の美しさを再現するだけでなく、現代の空間に求められる性能を備える。それが、木目シートという印刷技術です。(印刷博物館 学芸員 川井昌太郎)