コレクション

キャズロン活字鋳造所『活字見本帳』

収蔵品

19世紀後半制作/サイズ:275×375×5mm(横×縦×厚み)

資料番号:55887

イギリスを代表する書体の一つ、キャズロン・オールド・フェイス。オリジナルは18世紀前半にウィリアム・キャズロンⅠ世によって設計されました。一度は時代と共に忘れ去られた書体ですが、奇抜な書体が氾濫した産業革命後に時代と逆行するように再び注目を集めました。本資料はこの書体が復活を果たした19世紀後半にキャズロン活字鋳造所がつくった活字見本帳です。
書体はその時代を表し、またその時代により評価されます。本資料は18世紀前半に設計された書体キャズロン・オールドフェイスの見本帳で、19世紀後半のキャズロン活字鋳造所によるものです。産業革命の完成を経て再びオールド・フェイス書体が注目されたのは何故でしょうか?市場主義経済と共に多くの書体をも産出した産業革命は、均質的な豊かさの幅広い供給という理想と同時に、大量生産と機械化による粗製乱造という悪夢をも生み出しました。そうした反省から一部ではアーツアンドクラフツ運動のように、手工芸の復活や物に精神性を求める活動も発生しました。
キャズロン・オールド・フェイスはチャールズ・ウッティンガムが主催していた個人印刷所チズゥィク・プレスの要請により、イギリスで最も有名な歴史ある活字鋳造所キャズロン社の、埃をかぶった倉庫から生き返った書体です。当時も鋳造所を続けていた当のキャズロンの末裔でさえも、時代に合わない古い書体として自社の見本帳から外していた書体でした。良いものは時代を超えてなお良い。こうした背景で再評価されたキャズロン活字はオリジナル時代を凌ぐほどに人気を博し、キャズロン社も過去の名作を再び見本帳に取り上げるようになったのです。