コレクション

「羅城門渡辺綱鬼腕斬之図」月岡芳年画

収蔵品

明治期制作/サイズ:255×748mm(横×縦)

資料番号:00382

平安時代の武将渡辺綱と羅城門の鬼(茨木童子)の一騎打ちが描かれた錦絵です。羅城門に鬼が棲むという噂を聞いた綱は、真偽を確かめるため、見に来た印となる「禁札」を持ってやって来ました。夜の闇に包まれ、物凄い風雨に見舞われるなか、羅城門の下でまさに綱が鬼と出くわした決定的瞬間が描かれています。この後、綱は太刀を抜いて切り掛かり、鬼は鉄杖を振り上げ、激しい戦いとなります。
謡曲「羅生門」によれば、鬼は綱に組みつきましたが、逆に綱の払う刀に腕を切り落とされました。しかし鬼はひるむことなく、空に向かって飛び上がり、「切られた腕を取り返す」と言って黒雲の中に消えました。この勝負は綱が勝利し、謡曲の作者は、綱は鬼よりも恐ろしいとその武勇を称えています。
本資料は上下縦長の画面いっぱいに描かれているため、一枚摺りの錦絵や版本とは違う迫力を生み出しています。綱と鬼の形相、斜めから降りかかる驟(しゅう)雨(う)や雷光、立ちすくんでしまったような馬から、この場面の緊迫感が伝わってきます。
絵師である月岡芳年(1839~1892年)は、師である歌川国芳から受け継いだ武者絵や歴史画の表現に加え、師匠以上に構図や技法を発展させました。明治時代は新しい印刷技術が次々と実用化され、日本の伝統的印刷であった木版印刷は徐々に後退していきます。芳年は多くの版下絵を描き、最後まで浮世絵師の仕事を全うしました。
近年、武士や妖怪の人気が続いています。なぜ、平安時代の説話である武士や鬼が明治時代に錦絵として製作され、後世の私たちを魅了し続けるのでしょうか。卓越した浮世絵師がいたこと、高度な印刷技術があったこと、それによって武士や鬼が印刷物として次世代に伝えられたことが要因かもしれません。