コレクション

『東海遊子吟』

収蔵品

1906年(明治39年)制作/サイズ:133×190×15mm(横×縦×厚み)

資料番号:03532

『東海遊子吟』は、詩人土井晩翠が出した3つめの詩集です。晩翠は明治34(1901)年から私費でヨーロッパに留学しています。留学後二出版されたこの詩集には、ヨーロッパの情景を題材とした詩が多く収録されています。中に7葉の石版画がさしこまれており、この挿絵を担当したのは洋画家中村不折です。ロンドンに滞在した晩翠は、明治35(1902)年にパリに移り、パンテオン近くの中村不折や和田英作と同じ宿で過ごしています。その縁からか、同じ風景を見た不折に挿絵を依頼したのかもしれません。
また、収録されている詩の一つ「ミロのヱーナス」には、ルーブル美術館所蔵のアフロディーテ、すなわちミロのヴィーナスの写真が添えられています。この写真は、散粉グラビアによって印刷されています。日本で導入された最初期のグラビア印刷の作品です。
散粉グラビアは1875年にクリッチュが完成させた初期の写真印刷技法です。アスファルト粉末を散らして製版するこのグラビア印刷は、写真凸版やオフセット印刷のような網点は見えず、粉末の細かさしだいで非常に精細な印刷が可能です。日本では、明治39(1906)年1月の『写真月報』で「撒粉式写真凹版」として発表されました。『写真月報』の印刷にあたっては、東京高等工業学校生徒の益子保造が製版し、凸版印刷合資会社が印刷を担当しています。東京高等工業学校で教鞭を執っていた結城林蔵の指導によるものです。この時のノウハウがミロのヴィーナス像の印刷に生かされたのだと思われます。