コレクション

『天文図解』

収蔵品

1688年(貞享5 or 元禄元年)~1689年(元禄2年)制作/サイズ:165×228×7mm(横×縦×厚み)

資料番号:26956

『天文図解』は京都の井口常範が著述した天文書です。全5巻からなる本書は、日本で刊行された天文書としては早期のものではないかといわれています。内容は暦学が中心ですが、タイトルに図解とあるように、月や地球などを示す円形の挿絵が多く登場します。写真のように見開きいっぱいに大きく描かれた「衆星図」や「地儀ノ図」は、左右のページがそれぞれ別々の版木で摺られ、製本の段階でまとめられたとは思えないほど、見やすい円図に仕上がっています。
『日本書紀』によると、7世紀前半に中国の暦法や天文などが日本に伝えられました。暦法は天体観測や計算をして暦を作る規則のことを、また天文は天の異常現象を観測して吉凶を判断する占い術のことでした。以来千年以上、日本は中国からの輸入暦法を使い続けてきましたが、ついに日本人による修正暦法をもつことができました。それが京都の渋川春海によって上表され、貞享2(1685)年から実施された貞享暦です。この改暦の功績で、春海は碁所の役職から幕府が新たに設置した天文方に任ぜられ、暦本も全国で統一された内容になりました。
貞享改暦をきっかけに日本の天文学が急激な発展をし始めた頃、『天文図解』は出版されました。著者の井口常範は京都出身で、医師となり、後に江戸で水戸藩に仕えたようですが、未だに謎が多い人物です。本書の序文に、幼い頃より算術を好み、暇があると暦道の書を集め、諸書の枢要に己の意を加えて、関係する図を入れて彩色をしたとあります。
春海のような幕府天文方や暦作成者ではなくても民間有識者の間で天文学の研究が盛んだったこと、またそれが印刷出版活動に結びつき一般庶民も自然科学への関心が高まっていたことを、『天文図解』は教えてくれるようです。