コレクション

『植学啓原』

収蔵品

1833年(天保4年)~1837年(天保8年)制作/サイズ:177×257mm(横×縦)

資料番号:29470~29472

江戸時代の医者であり蘭学者、宇田川榕庵によって書かれた植物学の書。江戸時代、植物の研究は、薬理的効能に着目する本草学の領域でした。しかし、蘭学を通じた、リンネの植物分類学の流入により、日本においても西洋科学の見方が取り入れられ始めます。榕庵は、『菩多尼訶経』にて初めてリンネの24綱分類を紹介し、本書において体系的に西洋植物学を紹介しました。「植学」とは榕庵による造語であり、「本草学」と峻別を行う姿勢が見て取れます。
また、本書巻之三には色刷り木版画11丁、21の図が挿入されています。顕微鏡を用いた葉脈、根の断面図も載せていますが、自ら観測、記録したものというよりも、複数の洋書を参考に写し取ったものでした。花粉の図は「馬児低涅社(マルチネット)之書より抄写す」と記載されています。植物を西洋式の見方で捉えなおす過程では、新たな訳語も必要となりました。現在も使われる「細胞」「繊維」といった言葉は、榕庵によって用いられたことが知られています。洋書の図版を手掛かりに、新たなまなざしを得た学者によって、近代植物学への転換はなされました。