コレクション
嵯峨本『伊勢物語』
展示中
1608年(慶長13年)制作/サイズ:192×267mm(横×縦)
資料番号:70474
『伊勢物語』は、平安時代中頃に著された歌物語で、現存する歌物語では最古の作品です。在原業平(ありわらのなりひら)と思われる人物を主人公とした一代記風の形を成し、数多くの男女の恋愛話がおさめられています。平安期以降、さまざまな写本や版本がつくられたことで広く読まれ、人気を博しました。本書もその一つで、江戸時代初期に木活字によって印刷・出版された嵯峨本の傑作として、高い評価を受けています。
嵯峨本は、本阿弥光悦、角倉素庵らの一派が、京都の嵯峨の地を舞台に、刊行された書物で、光悦本、角倉本とも呼ばれています。印刷・出版に際して光悦は、行・草書体の漢字とひらがなよりなる木活字を作りましたが、2字、3字、まれには4字をつなげて作られた、連綿体と呼ばれる活字も用いられました。また光悦は、活字を作っただけでなく、鹿や蝶、梅などの模様を雲母(きら)で料紙に摺るなど、表紙や挿絵、装丁にも美術的かつ工芸的な意匠を施しました。
嵯峨本では、『伊勢物語』をはじめとして、『方丈記』、『徒然草』、『観世流謡本』など、古典文学を中心とする国文学書が印刷・出版されました。嵯峨本の出現は、民間における国文学書の出版を促すこととなりましたが、中でもこの嵯峨本『伊勢物語』は、文中に48枚の挿絵が含まれた本格的な絵入り版本であり、江戸期における挿絵本の出版に大きな影響を与えたのです。