コレクション

De oratore(『弁論家について』)

収蔵品

1470年制作/サイズ:205×285×30mm(横×縦×厚み)

資料番号:75420

キケロは古代ローマを代表する哲学者、政治家です。修辞に秀でたキケロは弁論の達人としても名を馳せ、知見を活かして弁論のさまざまなスタイルを本書にて論じています。15世紀だけで12版も刊行されていることから、ルネサンス期人文主義者が競って買い求めていた書であることがわかります。
名前の通り、ウェデリン・ダ・スピラは、ドイツ南西部の都市シュパイア(ドイツ語:Speyer、ラテン語:Spira)出身です。マインツで金細工師をしていた兄ヨハンとともに、ドイツで印刷技術を習得しました。その後、アルプスを越えて、1469年に二人はヴェネツィアで開業します。同市ではじめての印刷出版業です。後に印刷都市として発展していくヴェネツィアの礎を築いたともいえるでしょう。翌年には本書を出版していたことになります。
開業後まもなくヨハンは亡くなってしまいますが、ウェンデリンはその後も印刷所を切り盛りしていきます。活字の一部分を、自ら製作していました。ウェンデリンは写本書体をもとに新しい活字書体を生み出した文字設計者でもありました。新書体〈ヴェネツィアン体〉は、後にローマで洗練されていったことから、ローマン体と名づけられます。ローマン体は後世で最も使われる欧文書体となりました。
各ページ四隅には小さな穴が開いています。用紙の位置を針で固定していた跡です。印刷のズレを防ぐための工夫でした。グーテンベルクが活版印刷を完成させて間もない頃の印刷現場の苦労を窺い知ることができます。