「マインツ・インパルス」署名のお願い

Mainzer Impuls!
マインツ・インパルス(Mainzer Impuls)とは、失われつつある活版印刷文化の保存をめざし、賛同者を募る声明のことです。2020年、マインツ(ドイツ)にあるグーテンベルク博物館が中心となり、発表されました。
印刷工房を中心に活版印刷を保存継承する当館も、今回の取り組みやグーテンベルク博物館のミニ展示コーナーを開設し、日本を代表して署名活動をお手伝いしてまいります。
署名および詳細はこちら
署名期間:2022年4月19日(火)〜2022年7月24日(日)
photo © Gutenberg-Museum, Mainz
マインツ・インパルス(Mainzer Impuls)声明全文

デジタルメディア革命により、私たちは今、印刷の発明によってグーテンベルクの同時代人が経験したような激動の時代を経験しています。デジタル化は、あらゆる分野で私たちの日常生活を急速に変化させています。文書の作成、複製、拡散といったグーテンベルクによる手工業の技術も、かなりの部分がデジタル化されており、出版の多くの段階が自動化されてコンピュータが担っています。その結果として、可動式活版印刷の伝統的な手工業の技術――デジタルによる第二次メディア革命を可能にした技術――が、消滅の危機に瀕しています。

伝統的な手工業・印刷技術の保存

印刷技術の世界的な博物館でマインツにあるグーテンベルク博物館と、ヨーロッパの活版印刷発祥の地であるグーテンベルクの街マインツは、これらの重要な技術が間もなく失われることに注意を喚起するために、この訴えを行います。私たちは、父型彫刻から活字の鋳造、鉛の植字、プレス印刷に至るまで、活版印刷の歴史的技術を包括的に保護することを求めます。

ヨハネス・グーテンベルクの「工学的業績」を守るために、こうした方法に賛同してくれる一人でも多くの参加者を必要としています。したがってこの訴えは、すべての市民、関心のある公人、専門家、専門委員会、印刷工房、さらには活版印刷に関係するすべての機関に向けられています。活版印刷の国内的・国際的な重要性を考えると、この文化的技術が忘れ去られ、消滅してしまわないように保護するため、断固とした迅速な取り組みが必要なのです。

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必要とされる施策
  • グーテンベルク技術のために国際的な「ノアの箱舟」を設立すること。そこでは、実用的かつ非物質的な知識を維持するために少数ながらも活動している専門家が、その知識を若い関心のある人々に伝えること。ヨーロッパの教育プログラムはもちろん、伝統的な印刷技術を維持するための印刷工房や、グーテンベルク博物館を併設したブラックアート協会の「Walz」プログラムなど、教育と文化遺産の継承を組み合わせたプログラムから構成される。
  • 可動式活字による活版印刷(グーテンベルクの技術、父型彫刻からプレス印刷まで)をユネスコ無形文化遺産に登録すること。
  • 可動式活字による活版印刷(グーテンベルクの技術、父型彫刻からプレス印刷まで)をユネスコの「緊急に保護する必要がある無形文化遺産」に登録すること。
  • 「芸術的な印刷工程」を中心とする「メディア技術としての印刷」のための職業教育機関、および高等教育機関における職業訓練・継続訓練を量的に拡大すること。
  • 学校や専門学校のカリキュラムに「印刷・メディア史」を定着させること。
  • ERIH(ヨーロッパ産業遺産の道)などの既存のネットワークを拡大し、財政的に強化すること。
  • アナログ印刷の分野で現在も活動している企業を対象とした助成や、グーテンベルク博物館の印刷工房も含めた芸術的・工芸的な印刷工房の支援を行うこと。
  • グーテンベルク博物館を拡充し、優れた展示物やワークショップでヨーロッパや世界の歴史における活版印刷の文明的な意義を実践的に世界中の人々に伝える任務を今後も十分に果たすことができるようにすること。
最後のナレッジセンター

現在なお、手組み植字やプレス印刷機によって本を作り、その知識を伝えている印刷所がいくつか存在しています。ダルムシュタットには、世界で最後の活字鋳造所の一つが残っています。また、手彫りの書体や手組み植字、プレス印刷の需要も今なお存在しています。しかし、把握できる範囲で伝統的な職業に従事している専門家は、ごく僅かしかいません。手工業における真の知識の源泉は、現役の専門家が引退すると失われてしまいます。彼らの知識や経験は忘れ去られ、数多くの機械や作業場の設備は、誰も操作することができず、意義や機能がもはや知られないままになってしまうのです。

印刷の意義

印刷以上に世界を変えた発明は、他に類を見ません。それは20世紀まで、つまり500年以上にわたって、世界中の学問、政治、社会、経済、文化の発展に影響を与えてきました。そしてなにより、デジタル化によって私たちが現在経験しているメディア革命の基盤となっています。このことは2000年にアメリカでグーテンベルクが「マン・オブ・ザ・ミレニアム」に選ばれたことにも表れています。

グーテンベルク博物館

1900年に設立されたマインツのグーテンベルク博物館における研究と収集・展示活動は、技術的な発明、メディアの進歩、印刷の背景にある文化的・知的な原動力など、固有の複雑さが特徴としてあります。

他の博物館と同様に、本博物館は工芸品の伝統、技術的なノウハウ、情報や知識の伝達、国内外の文化や美術史の証言を目的としています。また、グーテンベルクの発明が書籍やその内容、購入者、生産者にもたらした変化を扱っており、ヨーロッパの文化・技術史における重要な歴史的時期を包括的に概観することができます。

グーテンベルク博物館は、グーテンベルクとその発明に関連する機械や物品の広範なコレクションがあります。最大級の東アジアの印刷物コレクション、そして蔵書票や細密本、商業印刷などの数多くの特別コレクションも有しており、120年にわたってこの重要な文化遺産の保存に努めてきました。

また、歴史的な印刷・製本技術に関する資料を集めた付属の特別図書館(グーテンベルク図書館)や、隔年で開催される小規模印刷業メッセも小規模な出版社や印刷業者にフォーラムを提供し、この遺産を保存し、伝える役割を果たしています。もう一つの重要な役割は、印刷工房での手工業の実践的な指導と研究です。グーテンベルク博物館はこのように、現代の電子メディア時代にも決して終わることなく、形を変えて継続している歴史的ストーリーを伝えているのです。デジタル化による情報や知識へのアクセスの大衆化は、関連性の高い側面の一つに過ぎません。

「マインツ・インパルス」のアイデア

このプロセスを開始するために、グーテンベルク博物館は、ベルリン・フンボルト大学のクラスター・オブ・エクセレンス「イメージ・ナレッジ・デザイン」とともに、2018年11月15日・16日にマインツで「印刷技術の変容II―ハプティクス」という会議を開催しました。グーテンベルク博物館館長の発案により、スザンヌ・リヒター博士(ライプツィヒ印刷工芸博物館館長)、フランツ・グレノ氏(ブックデザイナー・出版社)、エッケハート・シューマッハ=ゲブラー教授(ドレスデン、ハーグ=ドルーグリン印刷所オーナー)、アネッテ・ルートヴィヒ博士(グーテンベルク博物館)が参加し、マティアス・ニーフ氏(無形文化遺産室/ドイツ・ユネスコ委員会担当官)が司会を務めたパネルディスカッションで、上述の問題が取り上げられました。その際のゴールこそ、グーテンベルク博物館とグーテンベルクの街であるマインツから、グーテンベルクの遺産、ひいては人類の最も重要な文化的業績の一つが確実に持続的に存在するために幅広い関心を集められるような、「マインツ・インパルス」を作成することだったのです。

州都マインツ、2020年9月30日

マインツ市長
マインツ文化局長
グーテンベルク博物館 館長